書籍紹介:『Trading Places』と『Wall Art In Kenya』

写真集を二冊紹介する。いずれもケニアの印象的な光景を特集していて面白く、資料的価値がある。


Steve Bloom『Trading Places: The Merchants of Nairobi』(Thames & Hudson、2009)

食堂や理髪店、仕立て屋など、ナイロビで働く商人を取材した写真集。もともとアフリカの村で撮影の仕事をしていた著者は、飛行機でロンドンに発つまでの空いた時間を使ってナイロビの生活圏をはじめて散策した。村とは対照的な都会の喧噪と人々のエネルギー、そしてそれらを体現している店の佇まいに圧倒されたのが、ナイロビの商人を取材する動機となっている。
場所はKiberaやMajengo、Langata Kitengela Roadなどのディープなナイロビが選ばれている。職業も年齢も多種多様な店主を取材しており、各自ポートレートとインタビュー、店の外観や室内の様子といった構成で、全14組が登場する。同じ型にはまっていない撮影の方法やレイアウトと、インターバルにイレギュラーな写真が挟み込まれていて、見るものを飽きさせない。
同じ立ち位置から少しずつアングルを変えて撮影した複数枚の写真を合成したり、ストリートに沿って少しずつ移動しながら撮影した複数枚の写真を合成するなどのデジタル技術を用いて、高解像度で肉眼に近く、その場を追体験できるような写真も面白い。各商店の写真は、意図的にか曇った雨期に撮影しているものが多く、ドラマチックかつ細部までクリアに映し出している。
ロンドンの出版会社のためクオリティも高く、高価だがナイロビにも流通していることは意義があると思う。クリエイティブでエネルギッシュなナイロビの日常に触れることができる良書。


Arvind Vohora『Wall Art In Kenya』(Arvind Vohora、2011)

独立後にケニアの各所で見られるようになったというユニークな壁画を記録した写真集。商店に着目している点は先に紹介した写真集と共通するが、こちらはあくまでも壁に描かれた手書きの看板やメッセージ(コマーシャル・アートと呼ばれる)にフォーカスを当てており、人物や町の景観はほとんど登場しない。肉をさばく男の姿や酒を飲み交わす人々、いろいろな髪型など店の種類を表現する絵もあれば、バーの店内でよくみられるという、美しい女性に騙されないようにと警告する人魚のモチーフなど、メッセージ性の強い絵もある。
アートの教育もプラットフォームもパトロンもなかったケニアでは、“アーティストのような人たち”ができたことは、このように壁をキャンバスにして絵を描くことだった。実際、現在ケニアで活躍する美術家の中には、かつてコマーシャル・アートの描き手だった人も少なくない。
タンザニアで生まれたArvind Vohoraは、ロンドンで写真を学んだ後、1979年にナイロビに移り住んで写真家として活躍。1980年代に半年間かけてケニアのあらゆる場所を旅して壁画を取材している。台頭するブランドの看板や広告によって姿を消しつつあるこうしたコマーシャル・アートという一つのアートの現象を記録するのが本書の目的で、ケニアの大手通信会社サファリコムのバックアップで出版されている。壁画は確かに面白いのだが、メイド・イン・ケニアの本で単調なレイアウトと味気ないブックデザインが残念というほかない。
Arvind Vohoraは、ケニア国内のビジュアルアートを発展させることを目的に1995年にナイロビに設立されたKuona Trust/ Centre for Visual Arts in Kenyaの共同設立者の一人でもある。

2013年1月10日 西尾美也

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